14年前 自転車で自損事故を起こし 2ヶ月程入院した
その時 頭の右側を強く打ち 右耳が聞こえ難くなり
毎年の人間ドックでは「所見あり」だった
どうやら 高音域が聞こえないらしい
一時期は 人工内耳も考えたが
取りあえず それほど不自由でもなかったので
これまでずっと左耳だけで過ごしてきた
ところが 2年前の人間ドックでは
年齢のせいか どうやら左耳も
少し聞こえが悪くなったようだ
そう言えば TVのボリュームが
一段階 大きくなった気がする
このまま左耳まで聞こえなくなったら
不自由このうえないので
思い切って補聴器を買う事にした
私の耳は 普通より小さい様で
市販のイヤホンでは 耳の穴に上手く収まらない
そこで ちょっと高いけど見栄えも考えて
オーダーメイドの補聴器にした
右耳も全く聞こえてない訳ではないので
両方の耳に使った方がいいと専門医に言われて
かなりの高額になったが 両耳分を作った
オーダーメイドだけあって耳の穴にすっぽりとハマり
鏡で見ても補聴器は殆ど見えない
これはいい!!と、
すっかり気に入ったのだが
1週間もしないうちに問題が起きた
脳が右耳から聴こえる音に慣れていないのか
まるでTVの音声多重放送の様に
人の声がダブって聞こえてくる
初めて装着した時に先生が
「脳のトレーニングと音量の調節をしながら
1週間もすれば慣れますよ」と言っていたが
頭が混乱しそうなので
先生に相談に行こうかと迷ったが
慣れるまでもう少し我慢してみようと思い
人と話す時はいままで以上に神経を集中させた
すると 音声多重の様子が少し分かってきた
今までと同じように普通に聞こえる時も有れば
音声多重の時もある
そこで音声多重の時は より一層集中して
聞き取ることに専念した
2週間ほどするとだいぶ慣れて
かなり正確に聞き取れるようなったが
その内容に驚愕する
音声多重で聞こえてくる声の主は
両方とも 目の前で話す人の声だった
最初は 何を言っているのだろうと思い
「えっ!?」と聞き直すと
逆に相手が「なに?」とこちらに聞き直す
頭が混乱してどう処理をしたらいいのか
考えているうちに気づいた
いままで音声多重放送の様に聞こえていたのは
目の前で話す本人の
〝本音〟と〝建て前〟だったのだ
困惑しながら 3週間ほど使って 色々と考えてみた
先生に言ってみたところで本気にする訳もないし
認知症か?と呆れるかもしれない
本音が聞こえたって悪くない
むしろ 面白いじゃないか
どちらが本音かは 内容で分かる
そう思ってそのまま使い続ける事にした
そんなある日
仲のいい三人でランチに出かけた
一番仲のいい由美子は
私が 右耳が聞こえないのを知っていて
右側からは 聞え難いのに
何故かいつも私の右側に座る
由美子に 補聴器を使っている事を
知られたくなかったので
その日は 右の補聴器は付けずに出かけた
するとその日は一度も音声多重にならない
もしかしたら 右補聴器のせいなのか?
そう考えて 試しに数日間は 左だけを使ってみた
確かに 左だけなら声は一つしか聞こえない
が、あまり面白くないので
今まで通り 両方使う事にした
それから数週間が過ぎたある日
由美子が私にこう言った
理沙ってさぁ 今までも
かなりハッキリと本心を言う人だと思っていたけど
近頃は 前よりもっと本心を言うようになったよね…と
何を言っているのだろうと不思議に思っていると
由美子は続けてこう言った
前に三人でランチした時は
恵子がいたから言わなかったんだろうけど
先日 二人でランチした時に理沙が 恵子のことを
あんなふうに言うなんてびっくりしたわ
なんてことだ!!
本音が聞こえているのは
私だけではなかった
相手には 私の本音が聞こえていたのだ
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