危険な隣人
JR・私鉄・地下鉄 14路線が乗り入れる
巨大ターミナル駅 新宿
この駅を毎日 午後と深夜に通過して
職場に行き 家に帰る
6年前の秋
いつもの様にこの駅に電車が着くと
土曜の夜のせいかお酒の匂いをさせて
化粧も落ちた魔女や血まみれナースたちが
様々なコスチュームで乗り込んできた
今夜はハロウィンか
若い男女が乗り込んでくると同時に
向かいの席に座っていた男が
私の隣に移って来た
(なに?なぜわざわざこちらに移って来たんだ?)
座席は満席となり
右から押されて男の太ももが
ぴったりと私に寄せて来た
(なんか気持ち悪いな
ま、いいか あと二駅 4.5分の辛抱だ)
男は「今夜は賑やかですね」と話しかけてきた
そうですね…
愛想のない返事をした
電車が揺れ 〝魔女〟の女の子が
よろけて私の膝が押され
私の躰が 男の方に倒れかかった時
男が 「飲みに行きませんか」
私は 真っすぐ向いたまま
「いいですよ」
(えっ!?本気か?何 言ってるんだ冗談ですと断れ)
駅に着いて車内がまた騒がしくなり
数人が降りてドアが閉まった
すると男が「次ですね」
(どうして降りる駅を知ってるんだ
ストーカーか?ヤバいぞ!
早く断った方がいい)
男は続けて
「駅前のBarはどうですか?」
今度は私の顔を覗き込んだ
(チラッと見えた横顔に見覚えがあった
誰だ?どこかで見た覚えがある
おい、私の海馬しっかりしろ 誰だ?
ダメだ 思い出せない)
電車がホームに入りスピードを落とし
駅に着き ゆっくりと立ち上がった
( 思い出した!
向かいのマンションの人だ
洗濯物を干す時に 何度か見かけて
バルコニーの手摺に布団を干す時に目が合って
お互いに愛想笑いで会釈をした
その時 私の胸が
ドクン♡としたのを覚えてる
その後も何度か
視線を感じることがあった)
0時に近いのに大勢の人が降りる駅で
長く並んだエスカレータの列にやっと入り
彼は 数人後ろに並んだ
エスカレーターを降りると
後ろから足早に歩く革靴の
小気味良い音がして私の横で止まった
二人は黙ったまま並んで歩いた
改札の手前のキオスクを通り過ぎようとした時
いきなり右手を掴まれて強く引き寄せられた
一瞬の出来事だった
右手は強く掴まれたまま
私達は 物陰に隠れてKissをした
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