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気まぐれbebeのひとり言

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2023/10/12

嫌われホストの夜食

バスを降りてアパートに帰る途中に
お洒落な看板のスナックがあった

当時 付き合っていたカレシと
初めて飲みに行った時にマスターから
店で働かないか?と
その後も行く度に誘われていて

彼と別れて数ヶ月経ったある日
店の前を通り過ぎようとした時
お客を送り出すマスターと
思いがけず鉢合わせをして
1杯飲んでいきなよ!と誘われた

帰ろうとしたお客も店に戻り1杯が数杯になり

当時 化粧品会社で働く私は化粧が濃く
やや派手な顔立ちが
水商売に向いていると思ったのか
帰ろうとした時にマスターがまた
働いてくれないか?と懇願するような勢いだった

彼とはもう別れたし
出勤日は
気まぐれでもいいことを条件に働くことにした

カウンター8席 小さなテーブルが2つの
さほど広くないお店だったが
いつも賑わっていて
お客は 4.50代の既婚者が多く
2.3杯飲んで
カラオケを数曲歌って帰る人が殆どだった


そんなお店に紫陽花が咲き出した
小雨が降る日にその男はきた

お客を見送りに出た時に入れ違いに
「いいですか?」と二人の男が入って来た

サラリーマンには見えない
高そうなスーツを着ていて
雨に濡れたから…と上着を渡されて
ハンガーにかける時に見えたタグが
当時はまだ日本では無名の
ゴージラインの低いアルマーニだった

二人はカウンターに座ると
バーボンを注文して
ひとりの男が私に名刺をくれた

ホストか…

黒沢年雄似の色黒のホストが
それから時々店に来るようになった

来るのはいつも遅い時間で
閉店になるまで飲んでいて
マスターが 彼は危ないから…と
いつもそのホストが帰るのを待って店を閉めた

その日は 彼もかなり酔っていて
店を閉めると言っても帰らず
私を送っていきたいと
しつこく言う彼に根負けして

仕方なく彼を表で待たせて
店の裏口を閉める時にマスターが
私の耳元で「気を付けなよ」と言った

店から5分ほど歩きアパートの階段下で
「ここでいいから」と言うと
コーヒーくらい飲ませてよ!と彼がニヤついた

仕方なく部屋にあげたが
今日の彼はちょっと危険な気がして
お湯が沸くまで
ヤカンの側で立ったまま話をして
ちょっとぬるめのお湯でコーヒーを入れた

ぬるめの珈琲を三口ほど飲むと
お腹が空いたから
何か食べに行かないかというので
アパート裏の人気ラーメン店に行った

お腹が空いたと言っていた彼は1/3ほど残し
私が食べ終わると
彼は『財布を忘れた』という
仕方なく私が払った

ホストの世界では
当たり前のことかもしれないが
昭和50年代当時の 私の日常には
女性が男性に食事を奢ることなど
有り得ないことだった

ラーメン屋さんを出て
アパートの階段を駆け上り
部屋の鍵を開け
ちょっと待ってて!! と彼に声をかけ
急いで部屋に入り
彼のセカンドバッグを取った

ラーメン代は要らないから!!

そう言って彼にバッグを渡しドアを閉めた

苛立ちを露わにした彼の靴音が
遠ざかるのを聞きながら
部屋の灯りをつけると
飲みかけのコーヒーカップの横に
彼が忘れて行ったカフスボタンがあった

彼は ラーメン屋を出る時も
バッグを渡した時も
ごちそうさま!! と言わなかった

財布を忘れたのは
もう一度部屋に上がり込む為の手段だったのか

私は 彼が忘れていったカフスボタンを
右手でぎゅっと握り窓を開け
アパート前の空き地に思いっきり放り投げた

やはり
なるべく関わりたくない人種だ

あの男が食べたかった夜食は…

たとえご私が馳走になったとしても
そう簡単に落ちる女じゃない
まして
自腹でラーメン代を払って抱かれるほど
私は安い女じゃない

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