41才の決断
3月に誕生日を迎えたうちの彼女
お客さまから沢山の お祝いの花束を頂いた
24才の時
何の相談もなく突然 伊勢丹を辞めて
〝2ヶ月後にドイツ行き〟を知らされ
バタバタと支度を手伝いながら
なぜドイツなのか 理由も聞かされないまま
息子と一緒に空港まで送り
その秋に 彼女は 成田を発った
ドイツで2年働き 帰国後
今度は メキシコで働きたい…と
資金を貯める為に六本木のお水になった
芸能関係の方が多く訪れるお店で
今は故人となった
志村けんさんが上島さんを伴い
来店された時は 必ず席に呼ばれたそうで
そんなお店で2年ほど働き
まだ売れる20代のうちに
そう思って銀座に移った
まだ 20代の頃の誕生日には
お店に 置き場所がないくらいの
たくさんのスタンド花が
お客さまから贈られた
その数の多さで人気が分かる
厳しい世界で働いて13年
誕生月は 1年で一番の稼ぎ月だ
めざましTV・ミヤネ屋
月曜から夜更かし・有吉反省会
日刊スポーツ・プレイボーイ
沢山のメディアにも取り上げられ
みなさんに可愛がって頂いて
41才になった
誕生日の翌日 朝起きると
お花屋さんでも始めたのか!?と思うほど
リビングに沢山の花束があった
40過ぎても誕生日に花束を頂けるなんて
有難いことだ
朝の薬を飲み終えた私は
置きっぱなしの花束を
見栄えよく幾つかの花瓶に差して
家のあちこちに飾った
切れなくなった花鋏の
パチン パチンの鈍い音が
お客さまにお礼を言っている様で
心地よかった
花を飾り終えてしばらくすると
彼女の部屋で カーテンを開ける音がした
彼女の暮らし方は 実に明解だ
私が 二杯目の珈琲を淹れる頃に
不機嫌な顔で起きてきて
珈琲を飲みながら スマホに目を通す
その日も 二人で珈琲を飲んでいると
彼女は 自分のこれからの生き方を
モノローグの様に話し出した
声のトーンがいつもと違う
どうやら 真面目な話の様だ
結婚でもするのかと ちょっと身構えたが
土日にかかってくる電話に
時々 居留守を使っているのを見ていると
カレシからじゃない事が分かる
カレシなら 自分の部屋に行く
別れたカレシの時もそうだった
どうやら なにか思い至った事があるらしい
今度は何を思いついたのか
私は 相槌も打たずに黙って聞いていた
ドイツから帰国した翌年
夫を亡くした私との二人暮らしが
もう 14年経った
彼女のメキシコ行きは
まだ 夢の途中
★今回は プロローグで…
続きます
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